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 北京オリンピックのテレビ放送をカナダで見ていた時、一瞬映像が乱れたことがありました。たったそれだけのことだったのですが、私の心の中に、30年以上前の札幌の冬季オリンピックのときの思い出が鮮やかに浮かび上がってきました。最初は映像の乱れが「何か」を思い出させる、心のどこかに触れると思っただけだったのですが、すぐ、それが、札幌で、米国のスラロームの女子選手が金メダルをとった時のことだったと思い出しました。 

  1972年(というとものすごーく昔ですが)、札幌のオリンピックの時に私はNBCスポーツのテレビ制作チームに雇われて、1ヶ月以上札幌で過ごしました。開会式の始まる1ヶ月くらい前、札幌市内の仮設オフィスに電話をひくことから活動が始まり、競技の間も毎日夜中まで忙しく、時間に追われて通訳をしたり、競技場へいくキャスターや選手をスタジオに迎えるためのジープのアレンジをしたり、番組の制作の緊張感を垣間見たりと、この経験は、大変でしたが、とても楽しく、そして私にとっては思い出深いものでした。

   札幌では、今回の北京オリンピックと同じように、米国ではNBCが放映権をとっており、競技の映像はNHKが中心に世界各国で放映権をとった放送局に配信し、それぞれの局が自国の選手のインタビューや各種のストーリーを制作する毎日でした。私はその前の年にNBSToday Showが日本特集をした通訳チームの一員になるという機会があって、番組の制作がとてもおもしろく、また仕事ぶりが気に入ってもらえたこともあって、NBSスポーツで仕事をする機会を与えていただいたのです。

   当時は衛星放送の時間が決められており、その時間になると、競技の状況にかかわらず、回線が切れてしまいました。米国のテレビのプライムタイムに合うように、昼間の競技を放映するのですが、スラロームで米国の選手が後数秒で第1位ゴールということがありました。衛星放送が切れる時間が迫っていたので、何しろスタジオにいたスタッフは、何とかライブで米国に金メダルのタイムでゴールする所を放送したい!と必死でした。スタジオで映像を見ていたスタッフは皆「早く!早く!」と祈るような気持ちで見ていました。

  無事、1位でゴールというところで衛星放送の回線が切れたのですが、その時の興奮は、1か月以上、数十人のチームと朝から晩まで仕事をしたという経験とともに、今でも心に焼き付いています。(私はこのプロジェクトの通訳兼スタッフで雇われていたのですが、チームでこんなに一生懸命、仕事をするのだ!と感激したことを覚えています。同時に、スポーツやニュースという即時性が求められるテレビ制作の緊張感、何とか皆でやろう!という意識の高さもとても印象に残りました。)

   今回オリンピックの放送を見ていて、30年という年月がとんでしまったような気がしました。たぶんこれは、Michael Phelpsの前に7つの金メダルという記録を持っていたMark Spitzのミュンヘンオリンピックが1972年であったこと、そのときの映像が何度も出たこと、そして、私がたまたまいたのが2010年に冬季オリンピックが開かれる会場のひとつであるウィスラーであったことにもよると思います。映像の乱れが時を超え、思いがけない興奮を私に呼び起こしました。と同時に、スタッフの真剣さ、プロフェッショナルのすばらしさに、私が1972年に触れられたことは貴重な経験だったと思いました。

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コメント

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  • コメント (4)

    • Y.K.
    • 2008年 8月 28日

    私も長野五輪にボランティアとして参加した時に、非常にエキサイティングな場面に何度か遭遇しました。欧州人と思わしき記者から、突然ビデオカメラを渡され、『僕がしゃべるのでこのまま映して下さい』と言われた瞬間から、今まで聞いたこともない、推測さえできない言語で会場の様子を実況し、『どうもありがとう』と立ち去っていったのです。あまりに瞬時のできごとで、あっけにとられてしまったのですが、彼の話していた言葉は何語だったのだろう?と時々思い出します。五輪は本当に世界中から人が集まる、世界は広い!ということを実感させられました。
     また、選手のプロ意識にも感服しました。当時、スキー界のスーパースターでモンスターと言われていたヘルマン・マイヤー選手は、ダウンヒルでゴール直前にコースアウトし、ネットをとび越え、病院に運ばれたのですが、(ドクターストップだったそうですが、大会中は絶対に漏らしませんでした)数日後の大回転で見事に金メダルを取り、とんでもない体力と精神力だと思いました。TVで観るのも楽しいですが、やっぱり現場で世界イチを目の当たりにすると、何だかよく分からないけれども、ワクワク興奮する、またそれが一時的なものではなく、自分の人生に渡って持続するということを知った貴重な経験でした。

    • yishikura
    • 2008年 8月 29日

    Y.Kさん、石倉です。とても興味深いご経験のコメントありがとうございました。カメラを渡されて。。。という話は、オリンピックの場なら、何となくありそうだな!という感じのできごとですね。

    それから世界クラスの人の精神力は何しろすごい!と思います。こうしたことに直接触れることは、言葉ではあらわせないくらいの刺激を受けると思います。

    • No.51(MBA ’84)
    • 2008年 8月 29日

    近頃は一匹狼的に仕事をしておりますので、チームで成し遂げてみんなで喜ぶ高揚感を是非もう一度味わってみたいと思うようになって久しいです。何しろ嬉しくてもそれを分かち合う人がいないと喜びも爆発的とはなりません。一人でほくそえむとか・・・どこか暗いですね。ところで札幌の女子回転の勝者の米国選手はBarbara Cochranだとかすかに記憶しております。

    • yishikura
    • 2008年 8月 30日

    No.51さん、石倉です。コメントありがとうございます。
    苦労をともにしたチームでの達成感や連帯意識は、何にもかえがたいですし、その時の思い出が長い間、心に残ります。
    それから、札幌での金メダルはおっしゃるようにBarbara Cochranでした。

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